「春生にもちゃんと、弱さや見せたくないものがあるんだと知れて嬉しい」
「私は……知られたくなかったです」
「だけど俺は知りたいんだ」
囁いて、清貴さんは私の頬をそっと撫でた。
「『政略結婚だろうと結婚は結婚』と言ったのは春生だ。なのにきみは、いつも笑うだけで俺になにも見せやしない」
私の目を覗き込むように見つめる。
その瞳には真っ直ぐさとじれったさが混じる。
「春生の全てを俺に見せてほしい。受け止めてみせるから」
私の、全てを……。
その言葉に先ほどまでの恐怖心が一気に拭われる。
小さく頷いた私を、清貴さんはぎゅっと力を込めて抱きしめてくれた。
それから私たちは一度駅の方へ戻り、車で自宅へと帰った。
転んだ私を受け止めた拍子に、彼のスラックスやジャケットの背中は汚れてしまっている。
そのままでは車のシートも汚れてしまうのでは、と申し訳なくなったけれど清貴さんは『気にするな』と言ってくれた。
そして自宅へ着き、家へ入る……と思いきや、清貴さんは私の手を引いて旅館の方へと向かった。
「清貴さん?どこへ……」
「せっかくだし、家じゃなくてこっちでゆっくりしよう」
連れられてきた旅館はちょうどチェックイン時刻が過ぎたところらしく、増田さんたちが忙しなく動き回っていた。
けれど、泥だらけの清貴さんを見て驚きの声をあげた。



