愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~




最悪だ。

声を荒らげ、その手を拒み……嫌な姿をいくつも見せてしまった。

だけど、知られたくない。

私の中の本当の気持ちを。



失望されて、嫌われたくない。



駅前の通りを離れ、行くあてもなく細道を行き人目につかない山道へ入る。

自分がどこにいるかもわからないけれど、今はただあの場所から離れることで頭がいっぱいだ。



ここまでくればもう……。

そう思い背後を見る、ところが。



「待て!春生!」



そこにはあとを追いかけてくる清貴さんの姿があった。



「なっなんで追いかけてくるんですか!ここはそっとしておくところじゃないんですか!?」

「知るか!逃げ出されたら追うだろ!」



革靴にスーツという動きづらい格好にも構わず、清貴さんは駆け足で私との距離を縮める。

そのタイミングで、ヒールを履いていた足元がつまずいてしまった。



「あっ!」



転ぶ、そう思うと同時に清貴さんが私の腕を引っ張り後ろに倒れ込む。

しりもちをつく形で転んだ、けれど私は地面にぶつかることはなかった。

それもそのはず。清貴さんが私を体で受け止め下敷きとなってくれていたのだから。



「清、貴さん……」

「……追いかけないと、こうしてまた転んでひとりで泣くだろ」



泥でスーツを汚しながら、それを気にせず私を後ろから抱きしめてくれる。

ひとりで泣かせまいと守ってくれるようなその腕に、安心感を覚えた。



「それにしても驚いた。春生もああして声を荒らげることがあるんだな」

「……引き、ましたよね」

「いや、むしろ安心した」



安心……?

どうして、とその顔を見ると清貴さんはふっと笑う。