愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~




ダンボールを手にやってきた宝井神社は、今日も多数の参拝客が訪れている。

辺りを見回すと、ちょうど敷地内を歩く周さんを見つけた。



「周さん」

「春生ちゃん。こんにちは」



昨日同様、白い着物に浅葱色の袴に身を包んだ彼は、笑顔で私を出迎えた。



「どうしたの?今日も参拝?」

「いえ、今日はおすそ分けに。これ、野菜たくさんいただいたのでどうぞ」

「いいの?ありがとう。うち7人家族だし助かるよ」



家族みんなで暮らしているのだろう。嬉しそうに言いながらダンボールを受け取る彼は、やはりこれといって危険な感じはしない。



よし、これで用も済んだし帰ろう。

「じゃあ」と言いかけた私に、周さんは被せるように声を発する。



「せっかくだし、あがってお茶でも飲んでいかない?」

「え?」

「いただきものの和菓子があるんだ。野菜のお礼に食べて行ってよ」



昨夜の清貴さんの台詞もあって、一瞬変に身構えてしまう。

けど……お茶飲むだけなのに断るのも変だよね。

うん、そうだ。お茶飲んでお菓子いただくだけなら大丈夫!



そう自分に言い聞かせるかのように心の中で呟いて、周さんについて行く。

境内の一番奥にある平屋にあがり、玄関から廊下を歩いていった先にある広々とした和室に通された。



「境内の緑がとっても綺麗だから、縁側でどうぞ」



周さんがそう言って襖をあけると、目の前には緑の木々と白い石畳が美しい小さな庭が広がっていた。