「私、『いってらっしゃい』って言われるの好きなんです」
「え?」
「頑張っておいでって背中を押してもらえる気がして元気が出るから、だから家族には絶対言うんです」
『いってらっしゃい』で背中を押して、『おかえりなさい』で受け止める。
子供の頃、冬子さんたちがそうしてくれたように。
自分も、家族にはそうしてあげたいんだ。
「だから、これからも毎日言い続けますから。いつか名護さんにとっての当たり前になっちゃうくらい」
もうこの家にはあなたひとりじゃないよって、知っていてほしいから。
へへ、と笑って言った私に、名護さんは手を伸ばし頭をポンポンと撫でた。
いつもは冷ややかな目を細めてそっと微笑む。
その表情は、これまで見た中で一番優しいものだ。
わかりづらい人、不器用な人。
だけどきっと優しい人だと思う。
その穏やかな瞳が嬉しいと同時に、心の奥に罪悪感がチクリと刺さる。