私が5歳の頃、両親が亡くなった。
ふたり揃って車に乗っていたところ、信号無視のトラックに追突されての事故だった。
ひとり残った私を引き取ってくれたのが、父の姉であった冬子さんだった。
冬子さんは旦那さんと息子さんとの三人暮らしで、群馬県で『杉田屋』という温泉旅館を営んでいる。
ただでさえ旅館経営で忙しい中、冬子さんも旦那さんも本当の親のように育ててくれた。
私より年上の息子さんも、お兄ちゃんのように優しくしてくれた。
大学にも行かせてもらい無事教員免許を取ることができた私は、大学卒業後東京でひとり暮らしをしながら、高校の英語教師として働いていた。
けれど勤務先でいろいろあり、教師を辞めたその矢先、冬子さんたちからこの結婚の話が舞い込んできたのだった。
『ごめんね、春生……うちのために、結婚してほしいの』
『け、結婚!?』
突然の話になんのことかと詳しく聞けば、もう何年も前から旅館経営はギリギリのところで持っていたらしい。
老舗旅館といいながらも、老朽化したところは修繕しなければならないし、ところどころ設備投資も必要になる。
沢山の旅館が軒を連ねる中で、うちのような小さな温泉旅館が生き残るのはもう限界かもしれないと話していたそう。