「子供はどっちだろうな」

「へ?」



そう言いながら、彼はこちらに手を伸ばし、長い指で私の唇の端をそっと撫でた。

不意打ちで触れられてドキッとするけれど、よく見て見るとその指先には細かな海苔のかすがついている。



……さっきごはんにかけたふりかけのかすだ。

口の端についていたんだ、と気づいて恥ずかしさに顔が熱くなる。

そんな私を見て、名護さんは笑いを堪えるように口元を隠しながら玄関の戸を開けた。



「あっ、名護さん!いってらっしゃい!」



顔はまだ熱いまま、だけど言い忘れてしまわぬように声をかける。

それに対して彼から返ってくる言葉は



「……あぁ」



そのひと言と、小さな頷きだけ。

だけど、その反応が拒否ではないことは感じられる。



名護さんはいきなり距離を縮められるタイプではなさそうだし……少しずつ、こうやって接していければいっか。

一日中まともに顔も合わせなかった一週間前までと比べれば、今のやりとりだって大きな進歩だ。



最初はどうなることかと思っていたけれど、名護さんもあの日以来少しは歩み寄ってくれている気がする。



「よーし、この調子で頑張る!」



家にひとりでいるにもかかわらず、大きなひとり言を発すると、私は朝食の食器を片付け始めた。