「なんなんですか、この結婚生活!名護さんはそっけないし、私はすることもないし、いつもご飯もひとりだし……」



結婚に憧れがあったわけじゃない。

だけど、他人と他人のまま暮らすのはあまりにも寂しい。



「確かに形だけの夫婦ですけど、それでもあなたと夫婦になるために覚悟決めて来てるんです!」



涙でぐしゃぐしゃな顔ではっきりと言い切った私に、名護さんは一瞬呆気にとられる。



また跳ね除けられたらどうしよう、と胸には小さく不安がよぎる。

けれどその気持ちは、涙を拭った彼の指先にすぐ消えた。

そして小さく開かれたその唇からこぼされた言葉は



「……悪かった」



先ほどの拒むような言葉とは違うものだった。



「さっきはただ……寝ぼけていて、驚いただけだ。春生のことを拒んだわけじゃないんだ」



これまで冷静だったその表情が、切なげに眉を下げる。



「そっけないのは元々だが、考えた結果だった。食事は俺の時間に合わせるのが申し訳ないし、家のことはしない方がラクだろうと」

「え……?それって」

「ただでさえ君にとっては不本意な結婚だ。夫婦らしさを押し付け強要したくない」



それはつまり……ひとりでの食事は、彼の生活リズムに合わせて不規則にならないように?家事をしなくていいといったのは私の手を煩わせないため?

全ては、自分の意思で結婚したわけではない私のためにと、彼なりに考えてくれた結果だったんだ。



いつもは表情ひとつ変えない彼が、困ったように眉を下げる。