「この前は、ごめん」
清貴さんはそう言って私に向かって頭を下げた。
「春生のこと、傷つけた。ただ、春生がなにかに焦っているのはわかったから、そんな理由でしてはいけないと思ったんだ」
……清貴さんはわかっていたんだ。
私の心の中の、不安や焦りを。
わかったうえで、行為でごまかすのではなく止めてくれた。
なのに、自分のことばかりでひとり傷ついていた自分が恥ずかしい。
「……私こそごめんなさい。勝手に不安になって……本当の妻って言える確証がほしくて」
「確証もなにも、春生は俺の妻だろ」
「わかってます。でも……清貴さんの初恋の人が茉莉乃さんなんじゃないのかなとか、私でよかったのかなとか、思ってしまったら止まらなかった」
胸の中の不安を正直に吐き出す私に、清貴さんはそっと手を伸ばし頬を撫でた。
「違うよ。俺の初恋の相手は茉莉乃じゃない。茉莉乃にも……気持ちには応えられないって、断った」
私の不安を拭うように、そうしっかりと言い切る。
「俺は子供の頃、見た目の違いで散々からかわれたり差別されたりして、人に接するのが怖かった。けどある日、それを気にせず話しかけてくれた子と出会ったんだ」
「それが……私?」
思わずたずねると、清貴さんは小さくうなずく。



