山道を少しのぼっていくと、らせん上の階段の上に展望台がある。
そこへ上がると温泉街をはじめこの辺り一帯の街を見下ろすことができ、大きな山々と広い空がパノラマのように広がっている。
子供の頃から何度も来ているここは、幼い頃から私のお気に入りの場所だ。
そうだ、あの日……お父さんお母さんが亡くなった日。
私はたまたま冬子さんのところに預けられていて、そこで彼と出会ったんだ。
不安げな顔で、言葉を発することのない彼に少しでも笑ってほしくて、私は夢中でこの街を連れて歩いた。
そして夕方、彼とここで夕陽に染まる空を見て……。
「春生」
その声が現実に引き戻す。
驚き振り向くと、そこには展望台の下からこちらを見る清貴さんがいた。
急いでここまできたのか、息をあげ少し苦しそうだ。
「清貴さん……?どうしてここに?」
「周からメールがあったんだ。『春生が実家に帰るって言ってるから送ってくる』って……それで大慌てで追ってきたら杉田屋にいないから、もしかしたらと思って」
周さん、清貴さんにそんなメールを送っていたんだ……!
清貴さんは息を整えながら階段をのぼり、私の隣に立つ。
「仕事は、大丈夫なんですか……?」
「ちょうど用事で外に出ていたところだったからな。……春生が実家に戻ってしまうかと思ったら、どうしても引き留めなければと思ったんだ」
私のためにここまで来てくれたんだ。
電話でもメールでも、いくらでも連絡手段はあったはずなのに。こうして直接、来てくれた。
その思いに胸がきゅっと掴まれるのを感じる。



