「あ、そうだ。名護には俺からメールしておいたから。『春生ちゃんとおでかけしてくる』って」

「えっ、大丈夫なんですか」

「黙って出かける方が絶対怒られるからねぇ」



今更だけど……これはあとで清貴さんに怒られるやつなのでは。

『周とふたりで会うなと言っただろ』と嫌そうに眉をひそめる彼が目に浮かぶ。



「でも、俺とふたりで出かけて怒るってことはそれだけ愛してるって証拠なんじゃない」



周さんが笑って言った、その言葉にたしかにと思ってしまった。

周さんって、ふわふわしているようで真面目なようで……本当に掴み所がない。



「……周さんの恋人になる人は、苦労しそうですね」

「そうかな?こんなにいい男なかなかいないと思うんだけど」

「自分で言っちゃうんですね……」



周さんと話しているうちに、いつのまにか気持ちはすっきりとしていて、自然と笑えている自分がいた。

そして家を出てから数時間後……気付くと周囲の景色は見覚えのあるものに変わっていた。



「あれ、ここ……」



そう、そこは先日も清貴さんと来たばかりの私の地元。伊香保の温泉街だ。



「なんで、ここに」

「春生ちゃんの地元ってここだよね?初めて来たけど趣あるねぇ」



周さんは駐車場に車を停めると、説明もなく車を降りる。

私もそれに続いて降りると、一緒に石段街へと出た。



清貴さんの初恋の人に会いに行くって言っていたよね。それでどうしてここへ?

あのストラップ、見覚えがあるとは思っていたけれど……もしかして私の地元のものだったりする?



わけもわからず周さんについていくと、ちょうど杉田屋の門の前では掃き掃除をする冬子さんの姿があった。