一昨日、春生とともに仕事で伊豆高原にある支店へと行った。

日中は各自過ごし、夕方に合流したときにはいつも通りに見えた。



……いや、少し元気がないようにも見えた。

けれど、大丈夫かとたずねても『なにがですか?』と笑って流されてしまったものだからそれ以上は問えなかった。



ところがその夜、風呂から出た春生は突然バスタオル一枚で現れて……。



『……抱いて、ください』



春生の少し緊張した面持ちと、間接照明に照らされた白い肌。タオルの下に隠れた小さな体。

それらを思いだし、湧き上がる感情を抑えるように、俺はデスクに頭を打ち付ける。



考えるな、思い出すんじゃない俺……!



正直、すごく正直に言うと、あの時あのまま春生に触れてしまいたかった。

夫婦なんだ、そういう行為があってもおかしくない。

けれど……それが今じゃないだろうと、理性がとどめた。



実は、この結婚生活の中で彼女には言っていないことがふたつある。



ひとつは、俺と春生はあの顔合わせの日が初対面ではないということ。

幼い頃に一度だけ会っており、その時の印象だけで顔合わせの日を迎えたけれど……あの日、およそ20年ぶりに彼女を見て驚いた。



赤い着物がよく映える白い肌、ぱっちりとした愛らしい目、コーラルに塗られた小さな唇と俺の背より30センチ弱は低い小柄な体。

どれをとってもかわいらしかったからだ。

そんな見た目はもちろん、明るい性格もかわいらしく彼女となら結婚したいと一瞬で心は決まった。



けれど、彼女は違うだろう。

世話になった伯母たちのために本意ではない結婚をしたのだと思う。

それなら、なるべく負担をかけずに暮らせるようにしてあげたいと思った。



家事もしないほうがラクだろう、夫婦らしさを強要せず他人の距離感でいたほうが過ごしやすいだろう。

そう思ったけれど……ところが彼女は、そんなこと望んでいなかった。



春生は春生なりに、俺と向き合う道を選んでいた。

そんな前向きで真っ直ぐなところにいっそう惹かれたんだ。