「学校にいられなくなって退職して……冬子さんに連絡した。その時の冬子さんの落胆した声が、忘れられないんです」



私は電話越しに、仕事を退職したことを伝えた。

もちろん詳しいことは言えなかったけれど、『辞める』と言った私に冬子さんは深くは問い詰めなかった。



『そう……仕方ないわよね』



返ってきたのは、ただその落胆した声だけ。

それを聞いた瞬間、情けなさと罪悪感が込み上げた。



「冬子さんたちは、本当の子供でもない私に、お金と時間をかけて育ててくれた。なのに私は、すぐ心折れて失望させた……そんな自分が悔しかった」



話しているうちに、また泣いてしまいそうだ。

背中を向けたまま俯く私に、それまで黙っていた清貴さんが声を発する。



「……俺との結婚を受け入れたのは、そういうことか?」



ボソッと彼が問う、そのひと言に胸の奥が痛む。



清貴さんに嫌われるかもしれない。

失望されるかもしれない。

……だけど、嘘はつけない。



私は彼を見ることなく、小さく頷いた。



「結婚の話を聞いて、なるようになれと思ったのも事実です。だけど一番は……安心した」



結婚という、自分の人生をかけた大きなこと。

それを受け入れられた理由はーー



「これでやっと、冬子さんたちの役に立てる。がっかりさせないで済む、って」



そう、安堵したから。