二度目の初恋

私は中学生になると眼鏡も髪も模範解答も捨て、紀依に真正面からぶつかっていくことにした。


「紀依ちゃんのお母さんもお姉ちゃんも帰ってこないなんて酷いよ。そんな酷い人たちのことなんか放っておけばいい」

「でも、そんなことあたしには...」

「特別なことはしなくていいんだよ。無視して考えないようにすればいい。それだけで十分楽になれると思うよ」

「うん、わかった。伽耶ちゃんの言うこと、信じてみる。だって伽耶ちゃん、あたしのために真剣に考えて一緒に悩んでくれるんだもん。ありがと、伽耶ちゃん」


紀依に感謝されて私はやっととらわれていた渦潮から顔を上げ、息が出来た気がした。

紀依のその一言に私は救われたんだ。

佐倉由依を怨恨することに少しばかり罪悪感を持っていたのだけれど、それも蒸発した。

私が佐倉由依の代わりに紀依の姉になる。

私はそう決めて、毎週末佐倉家にお邪魔し、母から習った料理を振る舞うようになった。

紀依も紀依のお父さんも喜んでくれた。

私が佐倉家で夕食を囲んでいる間、父親が単身赴任の我が家では、祖母さえ遊びに来なければ母が1人だったはず。

でも、それでも構わなかった。

思い起こせば、佐倉由依が最初に私の母に入れ込んだんだ。

2年生の2月から3年生の9月まで母は乳ガンで入院していたのだが、そのことを知ったその日から彼女は私にひっついて毎日病院に通って良い子を演じていたのだ。

母は彼女をたいそう気に入り、私が習い事で行けない日も、病気のことを忘れるくらい彼女と笑っていたと祖母から伝え聞いていた。

彼女が私の母の心を盗んだのなら、私はそのお返しをしているだけだ。

私は何も間違ってなんかいない。