事故の翌日は日曜日だった。
夕方になり、私は塾だと嘘をついて遊びには行かなかった。
その代わり朝から悠永の似顔絵を描き続けていた。
途中で切り上げ、ベッドに横になって休んでいた、その時だった。
普段あまり音を立てない家電から"エリーゼのために"が流れてきた。
どうせ1階で夕飯の支度をしている母が出るだろうと思ってベッドでゴロゴロしていると、数分後に荒々しくドアが鳴った。
私は跳ね起き、開いたドアの先を見つめた。
母は息をはかはかさせながらものすごい形相で言葉を発していた。
「由依ちゃんが......由依ちゃんが事故に遭って...それで......記憶喪失になっちゃったって......」
「お母さん、それ本当?」
「ええ。さっきの電話...悠永くんのお母さんからで......。目覚めたら......誰の名前も...覚えてなかったって......」
母はその場に泣き崩れた。
「お母さん...大丈夫?」
「大丈夫なんかじゃないわよ!私が倒れた時、あの子だけは伽耶と一緒に毎日お見舞いに来てくれたのよ。そんな良い子がどうして...?可哀想だわ...。本当に...本当に...可哀想。変わってあげられるなら私が...。.....ははっ...あはっ...あー!あはーん!」
母はまるで迷子になった子供のように大声を上げて泣きわめいた。
その泣き声を鬱陶しいと思い、私は洗面所に行って顔をごしごし洗った。
仕上げに顔を両手でパンッと叩いたら一気に色んな感情がごちゃ混ぜになって胸を覆い尽くした。
悲しみよりも先に脳裏に浮かんだのは、嬉しさだった。
ゆいぼんの記憶がないってことは...元に戻れる。
ゆいぼんと出逢う前の私と悠永に戻れるんだ。
そう感じてから悠永の気持ちを推し量った。
でも悠永は...悠永は今どうしているだろう。
ゆいぼんの記憶が無くなって悲しんでるかな?
自分のことを覚えていてもらえなくて悔しいのかな?
私は鏡に映る幼くて冴えない、あの子の真似をして黒髪を胸まで伸ばした眼鏡姿の少女に話しかけた。
「ねえ、あなたは悲しい?」
答えは......。
夕方になり、私は塾だと嘘をついて遊びには行かなかった。
その代わり朝から悠永の似顔絵を描き続けていた。
途中で切り上げ、ベッドに横になって休んでいた、その時だった。
普段あまり音を立てない家電から"エリーゼのために"が流れてきた。
どうせ1階で夕飯の支度をしている母が出るだろうと思ってベッドでゴロゴロしていると、数分後に荒々しくドアが鳴った。
私は跳ね起き、開いたドアの先を見つめた。
母は息をはかはかさせながらものすごい形相で言葉を発していた。
「由依ちゃんが......由依ちゃんが事故に遭って...それで......記憶喪失になっちゃったって......」
「お母さん、それ本当?」
「ええ。さっきの電話...悠永くんのお母さんからで......。目覚めたら......誰の名前も...覚えてなかったって......」
母はその場に泣き崩れた。
「お母さん...大丈夫?」
「大丈夫なんかじゃないわよ!私が倒れた時、あの子だけは伽耶と一緒に毎日お見舞いに来てくれたのよ。そんな良い子がどうして...?可哀想だわ...。本当に...本当に...可哀想。変わってあげられるなら私が...。.....ははっ...あはっ...あー!あはーん!」
母はまるで迷子になった子供のように大声を上げて泣きわめいた。
その泣き声を鬱陶しいと思い、私は洗面所に行って顔をごしごし洗った。
仕上げに顔を両手でパンッと叩いたら一気に色んな感情がごちゃ混ぜになって胸を覆い尽くした。
悲しみよりも先に脳裏に浮かんだのは、嬉しさだった。
ゆいぼんの記憶がないってことは...元に戻れる。
ゆいぼんと出逢う前の私と悠永に戻れるんだ。
そう感じてから悠永の気持ちを推し量った。
でも悠永は...悠永は今どうしているだろう。
ゆいぼんの記憶が無くなって悲しんでるかな?
自分のことを覚えていてもらえなくて悔しいのかな?
私は鏡に映る幼くて冴えない、あの子の真似をして黒髪を胸まで伸ばした眼鏡姿の少女に話しかけた。
「ねえ、あなたは悲しい?」
答えは......。



