「着いたわよ~。ここがあなたのお家よ」

「こんなおっきな家に住んでたんだね」

「おっきくなんてないわよ。さて、ちゃんと掃除してあるのかしら?」


わたしは母と共に電車に揺られて駅で降り、その後はとぼとぼと歩いて帰ってきた。

ここで育ったと言うのに町並みも匂いも思い出も何ひとつよみがえってこないのを悲しいとも思えずにただ足を交互に出していた。


―――がしゃり。


もう7年も戻っていないのに母は慣れた手つきで鍵を開け、ドアを開けた。


「由依。さあ入って」

「うん」

「パパ~、紀依~!由依とママが帰ってきたわよ~」


母の呼び掛けに父が2階からスリッパを派手に鳴らして降りてきた。

病院で何度も面会し、ちょくちょく向こうのアパートに顔を出していた父より一回りほどふくよかな印象を受けた。


「おお!やっと帰ってきたな、由依!パパ待ち焦がれたぞ~」

「なかなか帰って来られなくてごめんなさい」

「いいんだ、いいんだ。これからまた4人で仲良く暮らせるんだから!」


と話していると奥から大きなバッグを持った女の子がこちらに向かって来た。

あれが妹の紀依...。

おそらくわたしの記憶から抜け落ちた存在の1人だろう。

7年の歳月で1度も会わなかった、たった1人の血の繋がっている妹をわたしは呆然と見つめた。


「紀依!」


母が駆け寄ろうとすると妹はそれを避けて冷たい視線を飛ばした。


「帰って来ちゃったんだね」


帰って来ちゃったんだね...。

それって歓迎されていないってことだよね?

その言葉に背筋が瞬間凍結した。


「紀依、あなたどこ行くの?これからパーティーするのよ」

「あたしこれから塾なの。お姉ちゃんと同じ通信制のバカ校になんて行きたくないから」

「ちょっと紀依!待ちなさいっ!」


妹の紀依は母の声を完全無視して駐車場にひっそり止めてあった真っ赤な自転車に乗って走り去っていった。