アタシは席を立った。

泰翔もももかもアタシを黙って見つめる。

アタシは涙でぐしゃぐしゃになった顔を、ゆいぼんからいつの日か誕生日プレゼントでもらったハンカチで拭いた。


「ごめん。呼び出したのはアタシだけど、もう...もう無理だ。先に帰るね。ゆいぼんのために何かやってあげたって...そう自己満足したかっただけなの。本当に...ごめん」


アタシは店を飛び出すと後ろを振り返ることなく、駅まで走った。

バスなんか無視してただひたすら走った。

秋の夜風は気持ち良い。

だけど、気持ちは紅葉とは正反対のブルーだ。

ゆいぼんのために何かしてあげたっていう証を残したかった。

それもあるし、ほんと、色々なことを思ったけど、でもやっぱり...やっぱりね、アタシの脳裏にはゆいぼんの笑った顔が浮かぶの。

物心ついた時から隣にいて、いかなる時もアタシの側で笑ってくれて、ちょっとしたことでケンカもしたけれど数分後にはお互いに側に寄っていた。

アタシの思い出にはゆいぼんがいて、ゆいぼんの思い出はあの日雲散霧消した。

その現実がいつもいつもいつも痛いんだ。

苦しいんだ。

辛いんだ。

だから、救われたかった。

アタシも救われてゆいぼんのことも救ってあげたかった。

だけどアタシに出来ることはこれ以上ない。

あの2人にはあの2人の想いがあって、アタシの言葉では彼らの心を囲っている分厚くて頑丈な壁を壊せなかった。

あとはもう時の流れに身を任せ、ゆいぼんに託すしかない。

ゆいぼん...ごめん。

アタシでは力不足だった。

あとはゆいぼん自身の力で本当の幸せを掴んで。

アタシは......1番近い場所で見守るよ。