なんとか出発のギリギリ1分前に滑り込み、バスに揺られてやって来たのは都内でも有数の都立進学校だった。
「立葵黎明(りつきれいめい)高校。ここにゆいぼんのもう1人の幼なじみとももかが通ってるんだ。今日は午前中大学受験対策の授業だったみたいでそろそろ出てくるはずなんだけど...」
「じゃあ来るまでの間、その幼なじみさんのこと聞かせて」
「あ、うん」
怜奈ちゃんの頬が少し赤く見えるのはこのまぶしい太陽のせいかな。
さっきまで覇気のある喋り方をしていた怜奈ちゃんが、上を見て考えながら、話しだした。
「そ、そいつの名前は風峰泰翔(かざみねひろと)。身長は175くらいで血液型はAB型。誕生日は6月16日で...あとはなんだろ?あっ、そうそう。昔からサッカーやってて今もサッカー部。一応エースらしい」
「一応ってなんだよ、一応って」
怜奈ちゃんの説明に誰かが口出しをした。
わたしはその声の方を見た。
すると相手もわたしを見ていてばっちり目が合った。
その瞳は、まるでブラックホールのように強い力が作用していて、わたしは今にも吸い込まれそうだった。
「ゆいぼん...。ゆいぼんなんだよな?」
「あっ...うん」
わたしが頷いた直後だった。
「ずっと会いたかった...ゆいぼんっ!」
わたしは彼に抱き締められた。
校門を出ていく何人もの生徒にあんぐりと口を開けられるが、力が強すぎて離れることが出来なかった。
「泰翔!ちょっと何してんのよ、いきなり!離れてよ!」
「あっ、ごめん...」
「もぉ!好きアピール強すぎてしんどい。そういう男は嫌われるぞ~」
好き...。
目の前にいるこの人はわたしのことが好きだったの?
色々なあつさのせいで思考が停止する。
「ったくもう。それよりももかは?まだなの?」
「ももか?ああ、百瀬伽耶のことか。懐かしいな、その呼び方。百瀬は吹奏楽部の練習があるから来れねえらしい」
「へえ、ももかって吹部だったんだ。確かに昔ピアノやってたもんね」
「ピアノはもう辞めたらしいけど、今はフルートやってるよ。1年の頃から大会に出てる。次期部長候補ってとこかな。ってかここで話すのもあれだから場所移動しよう。近くに安くて旨い喫茶店があるから」
1人取り残されているように感じるのはやはり仕方ないことなのかもしれない。
それでも記憶を蘇らせるためにも必要な痛みなんだ。
これを乗り越えられなければわたしはまたいつもの負のループに陥るだけだ。
ここは耐えなきゃ。
受け入れるんだ。
何があっても笑ってるんだ。
そうしていれば大丈夫。
わたしは自分にそう言い聞かせながら2人の後ろを黙って着いていった。
太陽は空の真ん中を陣取り、どこまでもわたしを照らしていた。
「立葵黎明(りつきれいめい)高校。ここにゆいぼんのもう1人の幼なじみとももかが通ってるんだ。今日は午前中大学受験対策の授業だったみたいでそろそろ出てくるはずなんだけど...」
「じゃあ来るまでの間、その幼なじみさんのこと聞かせて」
「あ、うん」
怜奈ちゃんの頬が少し赤く見えるのはこのまぶしい太陽のせいかな。
さっきまで覇気のある喋り方をしていた怜奈ちゃんが、上を見て考えながら、話しだした。
「そ、そいつの名前は風峰泰翔(かざみねひろと)。身長は175くらいで血液型はAB型。誕生日は6月16日で...あとはなんだろ?あっ、そうそう。昔からサッカーやってて今もサッカー部。一応エースらしい」
「一応ってなんだよ、一応って」
怜奈ちゃんの説明に誰かが口出しをした。
わたしはその声の方を見た。
すると相手もわたしを見ていてばっちり目が合った。
その瞳は、まるでブラックホールのように強い力が作用していて、わたしは今にも吸い込まれそうだった。
「ゆいぼん...。ゆいぼんなんだよな?」
「あっ...うん」
わたしが頷いた直後だった。
「ずっと会いたかった...ゆいぼんっ!」
わたしは彼に抱き締められた。
校門を出ていく何人もの生徒にあんぐりと口を開けられるが、力が強すぎて離れることが出来なかった。
「泰翔!ちょっと何してんのよ、いきなり!離れてよ!」
「あっ、ごめん...」
「もぉ!好きアピール強すぎてしんどい。そういう男は嫌われるぞ~」
好き...。
目の前にいるこの人はわたしのことが好きだったの?
色々なあつさのせいで思考が停止する。
「ったくもう。それよりももかは?まだなの?」
「ももか?ああ、百瀬伽耶のことか。懐かしいな、その呼び方。百瀬は吹奏楽部の練習があるから来れねえらしい」
「へえ、ももかって吹部だったんだ。確かに昔ピアノやってたもんね」
「ピアノはもう辞めたらしいけど、今はフルートやってるよ。1年の頃から大会に出てる。次期部長候補ってとこかな。ってかここで話すのもあれだから場所移動しよう。近くに安くて旨い喫茶店があるから」
1人取り残されているように感じるのはやはり仕方ないことなのかもしれない。
それでも記憶を蘇らせるためにも必要な痛みなんだ。
これを乗り越えられなければわたしはまたいつもの負のループに陥るだけだ。
ここは耐えなきゃ。
受け入れるんだ。
何があっても笑ってるんだ。
そうしていれば大丈夫。
わたしは自分にそう言い聞かせながら2人の後ろを黙って着いていった。
太陽は空の真ん中を陣取り、どこまでもわたしを照らしていた。



