二度目の初恋

「ママの前では言えないことなんだがな...紀依はずっと我慢して来たんだ。8歳でママと別れてから今まで由依やママに会いに行かなかったのは、お姉ちゃんにママを奪われたって思っていたからなんだ。ママに甘えたい時に甘えられず、紀依は常に我慢して生きてきた。だからママや由依を憎んでいるというか...真っ直ぐに受け入れられない気持ちが強いんだ。だからあんな感じになってしまったんだと思う」

「そう...なんだ...」


父も妹もわたしとは別の場所で別の時間を生きてきた。

そう簡単に受け入れられないのも分かる。

なら、わたしはどうすれば良いのだろう。

わたしにとって大切な家族を守るためにはどうすれば良いんだろう。


「由依にお願いがある」

「何?」


父がにっこり微笑んだ。

中年太りのせいかお腹が少し出てきた父はまるでたぬきのようだ。


「紀依が由依やママを受け入れるまでに時間がかかると思う。だけど、由依は紀依を無条件に受け入れてあげてほしい。紀依を優しく受け止め、何があっても笑ってるんだ。大事なのは気持ち。紀依を信じて待ち、紀依を受け止める優しくて広い心があればきっと大丈夫だ。絶対乗り越えられる」

「うん。分かった。わたし、頑張るよ」


父はわたしの返事に安心したのかその後は無我夢中でオムライスを頬張っていた。

心のどこかでそんな父を懐かしいと思う気持ちがあった。

父の名前を脳が忘れても心で父の存在を覚えているのかもしれない。

それは母や紀依に対しても友達に対してもきっとそうなんだ。

わたしは心で皆を覚えている。

それを伝えていけばまた皆と繋がることが出来る。

信じよう。

わたしの心の記憶を。