ぴったり11時、お父さんの車は、ホテルの前で僕を待っていてくれた。


「ごめんね、心配かけちゃって…」

車に乗り込んで、すぐに謝る。


「いいんだよ。17歳なんだ。迷惑かけるのが仕事みたいな年齢なんだから」

「お父さん、仕事は?」

「午後からにしたよ。大丈夫だよ、仕事の方は。タイミングよく仕上がったからね」

その言葉に嘘は見当たらなくて、僕は少しほっとした。


「このあとはリンクに行くんだろ?」


お父さんが笑いながら言った。

僕は自分の服装を見て、当たり前のようにリンクに行くことを前提に着替えていた自分に、今気がついた。


「あ……でも、あんなこと言った後で…なんだか、自信ないな」

「お父さんは理玖のスケートが好きだよ。理玖が滑ってくれてるだけで、それだけでお父さんは幸せな気持ちになれる」

その言葉にも、嘘はきっと無い。

僕は思わず泣いてしまった。


「いいのかなぁお父さん。僕、実力も、才能も、何にもないけど、スケートやってて、いいのかな……?」


「理玖。いいか、それは誰に許可をとることでもないんだよ。理玖自身が決めるんだ。辛いだろうけど、戦うんだ」

しばらく車の中は、静かに僕がすすり泣く声がするだけになった。



「さ、着いたよ。そんな顔じゃいけないよ。ティッシュ使って!」

お父さんが僕の手にティッシュの箱を持たせる。

僕は鼻をかんで、ちょっとまともな顔に戻る。


「お父さんは、応援してるからね」

「……うん。ありがとう」

「そういう時に「ありがとう」って言える理玖の気持ち、すごく素敵だ。行ってきなさい」


車を降りると、春風が頬を撫でた。

気持ちいい日光の中を歩き、そして冷たいリンクの上に、僕はまた降りた。