「お母さん、話があるんだけど……」

夕ご飯の皿を片付けているお母さんに、僕はスケートを辞めたいと言った。

「僕と同じ年齢でも、僕よりできる人はたくさんいるし……才能がないんだと思う。だったら勉強の方に集中して…」

その言葉をお母さんは途中で無理矢理に止めた。

「ちょっと理玖。何言ってるの?あなた、何歳からスケートやってきたと思ってるの。3歳よ。14年間も、私はあなたにスケートをやらせてきたの」

そして追い込むように言う。


「あなたが辞めるって言うんだったら、今までお母さんがあなたのスケートに投資してきた分のお金、全部返しなさい!」


「そんなの無理だよ……」


「返さないんだったら、プロのスケーターになってお金とって、お母さんに返してから、スケートやめなさい」


お母さんの欲求はほとんど脅しみたいなものだった。

そんな大きなお金を、17歳が返せるはずなかった。

そこで僕は、思わず言ってしまった。


「そもそも俺のスケート代金を払ってたのは、父親だ、お父さんだ。返すか返さないかはお父さんに決めてもらおう。だってそもそも、お父さんのお金だったんだから!」

その言葉にお母さんは口をつぐむ。
次の瞬間、顔が真っ赤になって。

「あなたをそんな子に育てた覚えはありません!出て行きなさい!」


お母さんは学校の制服と、帰ってきた時に持ってきたスケートのカバンを押し付けて、僕を玄関の外に追い出して……。


「少し頭が冷えるまで、家には帰ってこなくてよろしい!」


お母さんのスリッパを履いた足音が家の奥へ消えていく。

僕はただ呆然と玄関を見つめることしかできなかった。