帰りのバスの中で僕はイトウさんから手渡された小説に目を通す。
「小説はスケートに関係ないでしょ?」
読んでいる時、お母さんの言葉を思い出した。
ちょっとした罪悪感が僕を襲う。
今思えば、お母さんがどうしてあんなにスケートに執着しているのかわからない。
ただ子供にさせたかったから、だけなのかな?
でも、子供から小説を取り上げるほどに?
イトウさんの小説は、所謂「純文学」って言われる部類の小説なんじゃないかなと思った。
一つ一つの言葉は固くて、派手なアクションシーンはないけど、人の心の動きがストーリーの動きに大きく関わっている。
どこで誰の心が、どんなふうに変わったのかは、注意して読んでいないと分からなくなりそうだ。
この本を読むには集中力が要るぞ……。
自分の降りる2個手前で、僕は本をリュックにしまった。
この本はお母さんに見つかったら、きっと没収か、もしくは捨てられてしまうだろう。
スケートのバッグの中身は洗濯物が入っていて、自分で出してもお母さんが勝手にみてしまう……。
これは、本の入った自分のリュックを自室に持っていくミッションだ。
家に帰ると、喧嘩した昨日の今日で、お母さんの態度は素っ気なかった。
でもそれが幸いして、リュックの荷を解いて小説を隠す時間ができた。
隠す場所……布団は干されるし、クローゼットも時々開けられる…。
僕は考えて、文房具の入っている引き出しの一番奥に小説をしまった。
その日の夕食は気まずさに気まずさを重ねたようなモノで、お母さんは喋らないし、妹の優香(ゆうか)は夕食の場に出てくることはなかった。
優香もスケートをしているから、もしかしたら昨日僕がいない間に、変なプレッシャーをかけられたのかもしれない。
僕は夕食のカレーを食べながら、心の中で優香に謝った。
「で、理玖。あなた、スケートはやめないのよね?」
まるで確認作業のように、お母さんは問いただす。
「今日だって、練習行ってきたみたいだし」
「まあ……そうだね」
「……ま、今更あなたに残されてるのはスケートくらいだもの。勉強もさせてこなかったし、もうあなたの道はスケート一択よね」
「お母さん、まさかそのために僕から勉強まで取り上げたの……?」
「そんなの結果の話よ」
お母さんの返事は、確信犯の返事だった。
「信じられない。僕からテレビも小説も勉強も取り上げて、選ぶ年齢になったらスケートしか道がないようにレールを敷いてた?信じられない、本当に……!」
「落ち着きなさい二人とも!じゃあ、理玖。お前は本当にスケートがやりたくないのか?」
お父さんの言葉は、僕の心に深く刺さった。
お母さんのせい、お母さんのせい…と言って、スケートの道を、才能がないから「選びたくない」自分を棚に上げていたのに気づいて……。
「……今日は風呂に入って寝ます。おやすみなさい」
僕は食べかけのカレーライスをそのままにして、自分の部屋に逃げた。
「小説はスケートに関係ないでしょ?」
読んでいる時、お母さんの言葉を思い出した。
ちょっとした罪悪感が僕を襲う。
今思えば、お母さんがどうしてあんなにスケートに執着しているのかわからない。
ただ子供にさせたかったから、だけなのかな?
でも、子供から小説を取り上げるほどに?
イトウさんの小説は、所謂「純文学」って言われる部類の小説なんじゃないかなと思った。
一つ一つの言葉は固くて、派手なアクションシーンはないけど、人の心の動きがストーリーの動きに大きく関わっている。
どこで誰の心が、どんなふうに変わったのかは、注意して読んでいないと分からなくなりそうだ。
この本を読むには集中力が要るぞ……。
自分の降りる2個手前で、僕は本をリュックにしまった。
この本はお母さんに見つかったら、きっと没収か、もしくは捨てられてしまうだろう。
スケートのバッグの中身は洗濯物が入っていて、自分で出してもお母さんが勝手にみてしまう……。
これは、本の入った自分のリュックを自室に持っていくミッションだ。
家に帰ると、喧嘩した昨日の今日で、お母さんの態度は素っ気なかった。
でもそれが幸いして、リュックの荷を解いて小説を隠す時間ができた。
隠す場所……布団は干されるし、クローゼットも時々開けられる…。
僕は考えて、文房具の入っている引き出しの一番奥に小説をしまった。
その日の夕食は気まずさに気まずさを重ねたようなモノで、お母さんは喋らないし、妹の優香(ゆうか)は夕食の場に出てくることはなかった。
優香もスケートをしているから、もしかしたら昨日僕がいない間に、変なプレッシャーをかけられたのかもしれない。
僕は夕食のカレーを食べながら、心の中で優香に謝った。
「で、理玖。あなた、スケートはやめないのよね?」
まるで確認作業のように、お母さんは問いただす。
「今日だって、練習行ってきたみたいだし」
「まあ……そうだね」
「……ま、今更あなたに残されてるのはスケートくらいだもの。勉強もさせてこなかったし、もうあなたの道はスケート一択よね」
「お母さん、まさかそのために僕から勉強まで取り上げたの……?」
「そんなの結果の話よ」
お母さんの返事は、確信犯の返事だった。
「信じられない。僕からテレビも小説も勉強も取り上げて、選ぶ年齢になったらスケートしか道がないようにレールを敷いてた?信じられない、本当に……!」
「落ち着きなさい二人とも!じゃあ、理玖。お前は本当にスケートがやりたくないのか?」
お父さんの言葉は、僕の心に深く刺さった。
お母さんのせい、お母さんのせい…と言って、スケートの道を、才能がないから「選びたくない」自分を棚に上げていたのに気づいて……。
「……今日は風呂に入って寝ます。おやすみなさい」
僕は食べかけのカレーライスをそのままにして、自分の部屋に逃げた。
