「……岩永さん?」
聞こえてきた戸惑いを含んだその声に、ここが学校だということを思い出す。
「……っ、ごめんなさい、奥村くん。あたし、ちょっと行くところがあるから先に教室に戻っててっ」
「え?ちょ、岩永さん…?」
後ろから奥村くんの声が聞こえたけれど、それには聞こえないふりをして顔を見られないように気をつけながらすぐそばにあった階段を駆け上がった。
三階と四階の間の踊り場で後ろを振り返って奥村くんがついてきていないのを確認すると、そのままその場にしゃがみ込む。
皐月くんのことで暗い気持ちになったりするのは珍しいことじゃない。
……でも、従姉妹の二人以外の前であんなに動揺してしまったのは初めてだった。
自分でもわかるくらい声が震えていて掠れていたし。
あたしは心を落ち着かせるためにギュッと目を瞑って膝に顔を埋めた。



