桜田葉月はヒコーキに背を向けて座っていた。

頭に入ろうはずもないのに、ハードカバーの本などを両手で持っている。

ゲルマン民族史。うわ。

「葉月」

「え、あ? あれ? なんで。どうして?」

 『絶対に見送りに来た人間が通るはずのないところだから』選んだはずの店に、座っていた時間については、後ほど聞いてみるとして。

私はカバンからお届けの品を取り出し、差し出した。

ぴたりと、葉月のパニックが終了する。


 私は指定通りにいつもよりも低い声で、ドラマみたいにつぶやいた。