「千鶴。お待たせ」
「ぜ、全然、大丈夫……」
「じゃあ行くか」
……どうしよう。
燦がいつもと違っていつも以上に緊張する。
落ち着いた色のコートとジーパンという装いなのに、すごくおしゃれに見える。
せっかく2人に見立ててもらった臙脂色のワンピースが急に幼稚に見えないか気になってきた。
「ん、切符」
「お金出すよ、切符くらい」
「いいよ切符くらい。
今まで一度も千鶴とデート出来なかったんだから今日くらいお金出させろ」
ぴしゃりと言われ、返す言葉がなかった。
電車を待つ間もなかなか燦に話しかけることが出来なかった。
見ていることがばれないようにちらちら燦を見るのが限界だった。
電車が動き出すと、燦がわたしの方に少し傾いた。
突然のことに動揺したけれど、すぐに物理の授業で習った慣性の法則で頭の中を満たした。


