「……さっきの問題も。
……教えて。なんで質問するの?」
正面にある顔は相変わらず綺麗だ。
黒髪が夕日に照らされてうっすらとオレンジ色に染まっている。
黒いのに、透明感がある。
「……理由?」
「……うん」
「こっち見ろ」
言いながらわたしの顎を軽く指で上げる。
急に顔を触られたことで心臓がうるさくなる。
静かな教室に響いてしまうんじゃないかってくらいに。
「千鶴に近づく方法が、他に思い浮かばなかったから」
「……え」
「そういうこと」
「……」
「帰るか。
もう明日テストだし、千鶴も自分の勉強しなきゃだろ」
……なんということだ。
聞かなければよかった。
こんな状態で勉強なんて集中出来るわけがない。
そもそも、帰れるだろうか。
今立ち上がったら腰が砕けてしまいそうだ。


