ああ、絶対顔を上げられない。
「……そういうこと」
「ごめんね」
「謝るなよ」
そう言いながら、わたしの頭を大きな手が覆う。
急なことに大きく心臓が跳ねたけれど、顔が見えないのでいつもよりは緊張しない。
「顔上げろ」
「……無理」
「いいから」
「……だめ」
「あ、センセーだ」
「えっ」
思わず顔を上げてしまうと、笑われてしまった。
「ははっ、意外と千鶴って単純なんだな」
「ひどいよ、ちょっと」
「やっぱ笑ってろよ」
「え」
「千鶴全然笑わねえよな」
「そんなこと……」
「もっと感情出せよ。
あ、もう行かねえと」
くしゃっとわたしの髪の毛を触ってから立ち上がり、階段を降りていった。
わたしの気持ちだけが置き去りになる。
燦が見えなくなると、顔からボッと火が出るような感じがした。
頬に手を当てると熱い。
……わたしだけなのかな。
一応付き合って2ヶ月くらいになるのにこんなに動揺して。


