「こっち」
「え?ベランダは……」
「誰か来たら嫌なんだろ」
「まあ……」
「ベランダじゃなくて屋上の方がいいんじゃないかって」
「ありがとう」
一体なんの用なのだろうと思いつつ後ろをついて行くと、屋上に続く階段のいちばん上に燦が座った。
わたしも横に座ると、すぐに燦が口を開いた。
「俺のこと、なんで避けているの」
「え……」
「なんで?」
「別に、避けているわけじゃ……」
「じゃあなんで目を合わせないんだよ?」
「……」
「俺はいつも千鶴の目を見ている。
だけど千鶴は目を逸らしているように見える」
言われてしまった。
指摘される前に直そうと思っていたのに、いつもどうしても出来ない。
目が合いそうになると焦って前を見てしまう。
どうしても見なきゃいけない時は心を空っぽにしてなんとかやり過ごしてきていた。
「理由を教えて」
「……す……ら」
「あ?」
「……目が合うと、緊張するから」
言ってから顔をスカートに埋めた。
結んでいない黒い髪の毛が赤いであろう耳を隠してくれる。


