「……よし」
そう言うと、顎から手を離した。
「藤野」
「……はい」
「俺は藤野のことが好きだ」
「……っ!」
「藤野、付き合って」
「……そ、それは、勉強じゃなくて……」
「普通に、付き合うって意味の方」
わたしアホだ。
何を求めてこんなことを言ってしまったのか。
「……大切に、します。
だから、付き合ってください」
次の瞬間、わたしは床にへたりこんで、目から涙が溢れていた。
なんで。
なんで泣いているの。
「返事は?」
……この涙は、嬉しいから?
頭の中に夏川くんの記憶が駆け巡る。
テスト期間の勉強姿。
夕日に包まれた横顔。
飴を投げた姿。
夏祭りで見つけた時の顔。
ほんの一瞬触れた指先。
綺麗な黒髪。
わたしを見る目。


