「もっとこっち来ないと見えねえだろ」
「…あ、ああ、うん、そうだね」
椅子ごと夏川くんに近づくと、爽やかな匂いがした。
メントールとも、自然の野性味溢れる匂いとも違う、独特な感じ。
「これ、どういうこと」
「…これは、まず動詞を活用させないと」
「ふうん」
夏川くんの手元を見ながら、今日は変な1日だと思った。
朝からいちばん話している。
しかもわたしからいちばん遠い人とよく話すなんて。
夏川くんが問題を解いている間、やることがなく、何となく横顔を見ていた。
最近はよく見ているけれど、間近で見たのは初めてだ。
シャープな輪郭に、すっとした鼻、薄い唇、男の子にしては白い肌と、しっとりとした黒髪。
…綺麗な人、の部類に入るのだろうか。
歩いていると誰もが振り返るような容姿ではないけれど、綺麗な顔をしている。
見ていて飽きない。


