「あー、上から動詞、助動詞、助詞」
「正解だ」
…よかった。
わたしのしたことはばれなかったし、先生が面倒くさいことにならなかった。
もうみんな夏川くんのことは気にしていない。
きっとわたし達のほんの少しのやりとりも気にしていなかっただろう。
「…サンキュ」
隣からノートを渡された。
「うん」
一瞬だったけれど、目を合わせた。
前を向いた時、初めてまともに会話していたことに気付いた。
たった一言、サンキュ、うん。
短い言葉だけれど、長かった。
ノートを開くと、わたしのとは違う文字があった。
『勉強教えて』
…えっ。
左へ目線をずらすと、もう教室ではないどこかへ目を向けていた。
たかが一度、ノートを渡しただけで勉強を教えてもらうことを頼むことは、普通なのだろうか。
誰かに教えたことなんてないから分からない。
まして、あのよそ行きの目をしばらく向けられるのは心臓がもつ気がしない。


