とてもじゃないが、授業なんてまともに聞いていられない。
そもそもわたしが夏川くんをがっつり見なければよかっただけのことなんだけど、何を見ているのかが気になったのだ。
「じゃあここ。えー、夏川。
たまにしか学校来ないんだから解いておけ」
先生の言葉に生徒が笑い出す。
その笑い声でやっと気付いたのか、夏川くんは先生の方を向いた。
「はあ」
「夏川、聞いていただろ?
ここ、品詞分解してみろ」
先生が教科書をトントンと指で叩く。
夏川くんは教科書を持ってはいるけれど、あまりにまっさらで予習をした形跡がない。
…やばいなあ、あの先生怒ったら面倒くさいのに。
夏川くんがそれを知らないはずはないだろうから、黙っている。
「ほら、ここだ。
簡単なところだぞ、これくらいすぐに出来るだろ」
先生が後ろを向いた隙に、わたしはノートを夏川くんの机に置いた。
それ読めば大丈夫だから、と添えて。


