「……もう夕方か」
「うん、早い」
「冬だもんな」
「燦、あまり遅くならない方がいいんじゃない?」
横をふと見ると、燦がいなかった。
靴紐がほどけたのだろうと振り向くと、しゃがんでおらず、その場に立ち止まっていた。
どうしたの、と言おうとしたけれど、何故か重たい空気を感じて口を開けなかった。
「……千鶴、ちょっとこっち」
燦が手招きする方へ戻る。
「なに?どうしたの?」
「いいから」
「うん……?分かった」
そのまま手を取られてまた歩き出す。
せっかく出口まで来たのになぜかマーケットの広場の方に戻っている。
何をしたいのか全然読めなくてわたしは困惑するしか出来ない。
「ねえ、燦、どうしたの?」
「んー」
「今から戻って何するの?」
答える代わりなのかまだ歩き続けるらしい。
ねえ燦、と呼びかけようとした時、燦が歩くのを止めた。


