【翔騎サイド】
「華那ー、早くしないと置いていくぞー」
「しょーちゃん! あと3分だけ待って……! まだ前髪が巻けてないの!」
少し暑さを感じ始める6月の朝。
玄関から声をかけると、毎日のように同じ返事がかえってくる。
「翔騎くん、ごめんね。いつも待たせちゃって……。いつも早めに起こすようにはしてるんだけど、なかなか起きてこなくて……」
いつもの光景に、呆れたようにため息をつく華那の母親。
「大丈夫ですよ。もう慣れてるんで」
もうこんなのは、昔から何十回……いや、何百回と見た光景だ。
「はぁ〜……っ、何とかギリギリセーフ……」
洗面所から飛び出てきた華那の前髪は、せっかくセットしたところなのに少し乱れている。