月崎健斗(つきざきけんと)は息を吐きながらかばんを片手に走っていく。今日は付き合っている田島澪(たじまみお)の家でデートをするからだ。

「デート久しぶりだな!最近は大学の講義やサークルやバイトが忙しかったし……」

久しぶりのデートのことを考えると、健斗は胸が高鳴ってしまう。彼女の姿を見た刹那にその場に押し倒してしまうかもしれないとまで考えていた。

彼女の住んでいるマンションに着いた。澪はこのマンションの一階に住んでいる。

久々のデートに健斗は思わず呼び鈴を押さずに部屋に入ってしまうところだった。それを何とか堪える。

「あいつ、当然大きな音がするのは苦手だったよな。いきなりドアを開けちゃダメだ」

澪はかなり特殊な事情を抱えている。しかし、それは決して人ごとではないのだ。澪の持つ特性は、五人に一人が持っていると言われるものなのだからーーー。



健斗と澪が出会ったのは、高校二年生の夏休みのことだった。

「チッ!あのクソババア、勝手にこんなところに申し込みしやがって!おかげで夏休みが台無しだよ!!」