「………金里さん……?」 距離があるため聞こえていない様子だが。間違いない。彼女だ。 十年も想い続けた相手。見間違うはずがない。 視線で追っていると、大きなスーツケースを引いて、僕のいる反対側の手すりへと手をかけた。 なんだ……? 様子がおかしい。 そして、彼女が手すりの向こう側へと身を乗り出したところで、慌てて走り出した。 ――なにやってるんだ! 今までに無い全力疾走で彼女の元へと駆け寄った。