不思議と頭がぼうっとして、あたしは倒れた棺が片付けられていく目の前の光景をコマ撮りのように眺めていた。


 崩れ落ちていた祭壇が、大勢の人たちの手で光の速さで片付けられていく。


「新菜ちゃん、ちょっとごめんね……」


 千帆のお母さんが、動けないあたしを持ち上げて祭壇の前から避けさせようとしてくれる。


「待って」


 あたしの声に、千帆のお母さんはきょとんと首を傾げた。


 でも、待って。


「おばさん、あれ何……?」


 あたしの指差す先にいる黒猫が咥えていたのは、指。


 少し深爪の左手の小指が、猫の口元で呼吸に合わせかすかに震えている。


 近所でオババと慕われる、年齢不詳のおばあちゃんが両の手をしっかりと合わせて呟いていた。


「カミサマに……カミサマに奪われたんじゃ……!」