猫は着々とあたしに近づいてきていた。


 隣にいるはずのお母さんの体をつかもうと手を伸ばして、その手がすかっと空を切る。


 ……あの野郎、逃げやがったな。


 我が家は、一家一同みんな猫嫌いなのだ。


 守ってくれるはずのお母さんに逃げられ、1人で猫と対峙しなければならないあたし。


「にゃああああ!」


 と猫が大きく口を開け、あたしはぎゅっと固く目をつぶった――。