そしてお焼香の順番がやってきた。


 白い棺に囲まれて、千帆の顔は見えない。


 先に立つお母さんに続いて、見よう見まねで頭を下げる。


 そのとき。


「――猫だ!」


 会場に、どこからか黒猫が入ってきていた。綺麗な毛並みのその猫は、どこか高貴ささえ私たちに感じさせながら、悠々と会場の真ん中を闊歩する。


「きゃああああ! こっち、来ないで!」


 そう、あたしは猫が大の苦手なのだ。


 小さい頃に野良猫に襲われたトラウマがあって、たとえ子猫であってもどうしても可愛いと思うことができない。