私は普通の女の子だった。



本当にごくごく普通の
世間一般で言うモブキャラというもの



毎日同じように学校に行って友達としゃべって、部活して…


クラスの中心になることはなかったけど、



正直それで十分だった。



たまにトラブルがおきることもあったけど私にとっては楽しい毎日だった。




それが少しずつ変わったのは、高校の入学式の日からだ。




「おはよう。」

「あー!!やっと来た!おはよう。
もうクラス分け見ちゃったよ。早く見ておいで」


小学校からの友達のみなはいつも通り朝からとても元気だった。



「みなちゃんはいつも元気ね。おはよう」


私の母とも仲が良く当たり前のようにおしゃべりをはじめた。



母もみなもしばらく動きそうになかったのでしかたなく一人でクラス分けを見に行くことにした。



家から通学時間1時間のこの学校に進学したのは同じ中学の人では私とみなだけだ。



なんとしてでもみなと同じクラスになりたい!



不安でドキドキしながら掲示板を見る。



A組からD組まであるのでAから順番に目でなぞる。



あった!私もみなもD組だ!



喜んで浮かれた私は急いでみなのもとへと戻ろうと思い、振り返った瞬間。



多くの人が集まっていたので誰かの足に引っ掛かり盛大にこけてしまった。




クスクス
誰か声かけたげなよ
ださっ
どんくさ
かわいそ


聞こえてくる全ての声が心に刺さり、とても恥ずかしかった。



急いで立ち上がりスカートの土を払う


こけたときについた手のひらと膝を擦ってしまっていたが逃げるようにその場を去ることしか出来なかった。



「クラス分け見た?ってどうしたの!?」



みなが私を見つけて声をかけてくれる。



「大丈夫?ごめん、絆創膏もってないや」



大丈夫?の一言に安心できた。



「大丈夫だよ。ちょっとこけちゃった」


笑いながら返す。


後から来た母には


「いつもはしっかりしてるけどたまに派手にやらかすのよね。」
と言われてしまった。


確かにそうかも…



入学式の前に各教室に行かなくてはいけないため母とは正門で分かれみなと一緒に教室へと歩き出す。



正門から下駄箱までが校舎の脇を通るコの字型で、中庭を突っ切って校舎にはいる珍しい造りだ。




「ほんと、クラス一緒でよかったよね。」


と、みなが笑顔で言ったのとほぼ同じタイミングで


「あの」


控えめに、だけどはっきりとした少し低い声が聞こえてきた。


なんとなく私に声をかけられたような気がしてふりかえる。


「もしよかったら…。俺しょっちゅう擦り傷つくるんで持ち歩いてるんです。」


155センチの私より20センチほど高い位置から真剣な顔で坊主頭の男の子が絆創膏を差し出してくれている。


「ありがとうございます。」


と感謝を伝えながらも、少し戸惑ってしまう。


とりあえず、ありがたく受け取った。


「いえ、気にしないで下さい。」


少し照れた様にしながら、そう言い残してさっさと下駄箱へと歩いていってしまった。


あ、いい人っぽい反応だ。


「いい人だったね。そこの水道で洗ってから貼ろうよ。」


「うん、ありがとう。」


やっぱりみなとは感覚が近いなと感じて嬉しくなる。


下駄箱手前の中庭に設置されている水道で傷口を洗い、さっきもらった絆創膏を貼る。


さっきまで痛々しかった傷が見えなくなることで少し気持ちが和らいだ。



1年生の教室は階段を2階に上がって右にA組とB組、左にC組とD組がある。


左に曲がろうと思いつつふと右を覗いてみると絆創膏をくれた坊主頭が廊下を覗いていて、A組に入っていくのがわかった。



へぇA組なんだ、と一瞬思ったがあっという間に人に流されて見えなくなる。



教室に入ると皆少し緊張しているような面持ちだった。



なんとなくいい雰囲気のクラスに思える。



みなは出席番号31番、私は36番だった。



最初の席は出席番号順のため少し離れてしまったがクラスが一緒だったので十分だ。



席につくとしばらくしてチャイムがなり、担任らしき先生が二人ドアを開けて教室に入ってきた。




ありきたりなお祝いの言葉と挨拶を済ました先生は入学式の流れについて話し始める。



ベテランっぽいけど、面白味のなさそうな先生だな。



なんて思っていると、
あっと言う間に移動だ。



廊下に出て整列して体育館へと向かう。



A組から順番になるようにぞろぞろと進んでいく。



体育館に近づくにつれて吹奏楽部の奏でる曲が大きくなってくる。



音が大きくなるのと比例するように私の緊張も増してくる。



雨の音のような大きな拍手を聞きながら入場する。



たくさんいる1年生のうちの一人なのだとわかってはいるが緊張で汗ばむ。



道の両脇に見えるのは人の顔だけだ。



用意されているパイプ椅子へと座った。


やっと一息って感じがする。



式は滞りなく進んでいく。


校長先生の話長いな…と思いながらも、緊張から眠気はこなくてよかった。



「新入生代表挨拶。1年D組、赤崎 みな」

「はい!」


みなが呼ばれて元気よく返事をしている。


うちの学校の新入生代表挨拶は成績が良い順番に知らせがきて、断ることも出来るシステムになっている。


(断る人の方が多いそうだ。)



つまり、みなは1番ではなかったが前の人が皆断ったためみなに決まったのだ。



私よりは確実に成績いいけどね。


私は中の上くらいだから。



「桜の花が美しく咲くこのうららかな日に…」

と真面目な文章を壇上で堂々と話すみなが私の目にはとてもかっこよくうつった。



入学式の日はあっと言う間に終わり、特にクラスメイトと話す時間もないまま下校になった。



今日はみなも私も母と来ていたため、バラバラで帰り明日から一緒に登下校することにしている。



「バイバイ!また明日!」


「うん!朝、寝坊しないでよ。」


「わかってるよ」



わかってるよ、といいながら少し目をそらすみなと別れて、母の運転する車で帰る。


車なら家まで40分ほどで着く。



「みなちゃんと同じクラスで安心したわ。」


「うん。本当に一緒でよかったよ。」


などの他愛のない話をする。


「ただいま~」


家についたとたんドッと疲れが出て体が重たくなる。


重りがついてるみたいだ。


ソファに倒れ込むように座るとギシッと嫌な音をたてる。


中身はあまり変わってないのに身体と年齢ばかり大きくなっていって嫌になってしまう。


手を洗うためになんとか身体を持ち上げながら洗面所に行こうと思ったタイミングで母に


「帰ってすぐソファに座るのやめなさい。手は洗ったの?」


と少し怒ったように言われて


「今やろうと思ったとこ!」


とありがちな返事をしてしまう。


どうしてこんなに嫌なタイミングで声をかけてくるのか不思議でしかたない。


やる気が失せるとわかっていながら言っているのだから少しくらいあたってもいいのではと悪い考えを持ってしまう。


手洗いうがいをして部屋着に着替える。


本格的にだらだらしようと思ったところで弟が学校から帰ってきた。


小学6年生の弟は普段はわりと生意気なのだが、可愛いところもあるので憎めない。


「ただいま。」


「おかえり。」


「姉ちゃん入学式どうだった?」


「疲れた。でも、みなとクラス一緒だったからよかったよ。」


「へぇ、よかったじゃん。」


少し口調がえらそうではあるが、やはり気にしてくれていたのだと思うと嬉しい。


「なんか、にやにやしてるし(笑)」


「ん、してないもん」


「てか、その足どしたよ。また転けたんか」


「そういうこと…」


「だっせぇな~。いい加減ちょっと気を付けろよな」


「わかってるもん。」


この歳になってまだ年に一回は転けてしまう自分が恥ずかしく感じる。



やっぱり気を付けなくちゃ!



「アニメ見ようぜ。」


と弟に誘われ、そのまま毎週楽しみにしているアニメを見る。



見終わった頃に声をかけられお風呂にはいるよういわれる。



お風呂染みるかな~

なんて思いながら絆創膏をはがすのが少しもったいない気がしてくる。



よく考えてみたら絆創膏持ち歩いてる男子って珍しいよな…



私も持ち歩くようにしよう!



仕方ないので絆創膏をはがし、お風呂にはいる。


ジリジリとお湯が染みてしばらく痛みに耐えると、だんだんなれて何も感じなくなる。

.......................................


「出たよ~ 」



「じゃあ、俺入ってくるわ。」


弟がお風呂に入りに行く。


キッチンを通り、リビングに行こうとすると、「あら~、痛そうね。」
と少し茶化しながら母が言ってくる。


恥ずかしい気持ちがまたよみがえってき
た。



絆創膏によってわかりづらくなっていたから、クラスでは特に何も聞こえてこなかったのだと今になって気がついた。



夜になり、眠る頃になって明日学校に行くのが少し不安になる。



明日は誰かに傷がばれてしまうかもしれない。



クラスの人に「どんくさいやつ」という認識を持たれてしまうのが嫌でしかたがない。



もし、明日また会えたらきちんと絆創膏のお礼をしよう。


お礼は早めに言いたいけどやっぱあんまり学校いきたくないな。

いや、そんなこと今から考えてたらダメだ!友達が明日は出来るように頑張ろう。


そこまで考えるとやっと安心して眠ることができた。



入学式で気をはっていて疲れていたのもあり、とても深い、心地の良い眠りだった。