その上司、俺様につき!

「そんな……」
「俺は俺のやりたいことを、仕事にして生きる」
社長との関係はこれからきっと、もっといいものに改善していけるだろう。
私は確信めいたものを心に、自分にもできることがあれば、これから最大限2人をサポートしようと決めた。
「……そうやって仕事に邁進すると決めた時、そばで支えてくれる人間も自分と同じ系統がいいと思ったわけだ」
先ほどとはガラリと調子が異なる、静かで穏やかな声。
彼の視線の先を確認しなくても、私を優しく見つめてくれていることが気配で伝わった。
「ま、まさか、私……ですか?」
「ああ。そうだよ」
ははっと彼は楽しそうに笑う。
「あの日君を見つけた瞬間、らしくないとは思ったが、話しかけたくなってたまらなくなってしまったんだ」
「あの日って、もしかして……」
脳裏に甦るのは、4月1日の朝。
波乱の幕開けとなった、あの日の記憶しかない。
「そうだ。君の服を盛大に汚した日だな」
「~~~っ!」
もう時効じゃないかとカラッと笑う彼に、少しイラついてしまった。
けれども考え方を変えてみれば、あの出来事のおかげもあって、今ここにこうして2人でいられるのかもしれなかった。
あの出会いがなければ、お互いに惹かれ合うことはなかった可能性もある。
そう思えば、怒るより感謝すべき事件だったのかもしれない。
(でももし、タイムマシンがここにあったなら、あの時の私じゃなくて、あの時の久喜さんに伝えたいわ。もっとマシな口説きかたをしなさいよって!)
「はは、そんなに目くじら立てるなよ。書類でしか見たことがなかったパートナーを、やっとこの目で見れたと思ったんだ。俺にも余裕がなかったんだよ」
「……でも、人違いって言いましたよね?」
ジトッと尋ねると、思わぬ反撃が待っていた。
「そうだな。あの時は完璧に人違いだと思ったよ。書類で確認したよりも、大層君が美人だったからね」
「―――っ!?」
カーッと頬が熱くなる。
どうしてこの人は急に、こんな饒舌に甘い言葉を吐く男に豹変してしまったのだろうか。
あまりのキャラ変更に、心音は早まる一方だ。
「がっかりしてその場を離れたっていうのに、まさかあの時の彼女が君本人だったなんてな」
「……それにしては、やたら冷たい態度だったと思うんですけど」
「それは仕方ないさ。目の前で動く君に出会って、新たに守る約束事が増えてしまったんだから」
またしても、初耳の情報がもたらされた。
「何です、それ?」