小学生の頃の智之は 素直で 好奇心が旺盛な子供だった。


兄と同じように 何にでも心を開いて 明るかった。

興味があることは 貪欲に質問して 両親に 面倒だと思われるくらいだった。


でも今の智之は 自分から 話題を振ることはしない。
 


父は 思春期の男の子の 正常な変化だと思っていた。


確かに それはあったと思う。

感受性の鋭い智之は 大人の狡さや汚さを 嫌悪していたから。



でも智之を 悩ませているものは そういう事ではなかった。
 


母は 何かに気付いていた。


気付いていたけれど 距離を詰め過ぎずに 見守っていた。


不安定な年頃の 男の子だから。


智之が 自分で解決できる日を信じて。



時々 母の目から滲む 温かな思いやりは 智之の救いだった。