翌朝。
吏久の口振りからして、おそらく放課後の話をしていたのだろうけど、朝練してる部員もいるかもしれない。
そう思い、吏名は7時に登校してきた。
案の定、校庭では陸上部の数人が練習していた。各々で独自のメニューがあるんだろう。
その中には、当然のように吏久もいる。
「あ、早乙女さんっ」
吏名に気付いた吏久が、声を出して駆け寄ってきた。
「おはよう!」
「んっ…。お、おはようございます」
なかなかの勢いでやってきたせいか、軽く気圧されてしまう。
「昨日、すぐ行っちゃったから…。俺、早乙女さんと話したいなーって思ってたんだけど」
「それは…すみませんでした」
「でも東先生から聞いたよ。連絡先聞いてたんでしょ?経験者だと、そういう所にも気回るんだなーって感心しちゃった」
「当然のことです。言ったじゃないですか、冴島先輩のこと速くするって」
「言ってたね。嬉しかった。けど、どういう意味?」
「…そのまんまの意味ですけど」
吏名が戸惑いながら返せば、吏久は
「じゃなくて!…あの言い方だと、前から俺のこと知ってるみたいな感じだったから」
と答える。
「…去年の、9月の大会で。高校生男子の部で、優勝してましたよね」
「うん、一応…」
「そこで、冴島先輩のことを知りました。それで、走り方見てて…もっと速くなりそうだなって思って。気付いたら、この高校に来てました」
「そうだったんだ…じゃあ、俺に期待してくれてるってわけだ。ありがとう」
吏名は少しだけ微笑んだと思うと、
「冴島先輩こそ、私のこと知っててくれたみたいじゃないですか」
と言った。
「そりゃ知ってるでしょ!だって、誰も抜かしてない記録を叩き出してるんだから」
私も、あの記録を抜かせなかった。
なんて、口が滑りそうになる。



