side凛斗

「さよなら」

すれ違う先生に頭を下げながら
昇降口を出ると
今にも雨が降りそうな天気だった。

あ、やばい。

福原に傘を渡すの忘れてた。

サブバックに入っている、
母さんから預かった赤い折りたたみ傘を
手にとり下駄箱に戻るが、
すでに靴はなかった。

マジか

とりあえず電車に乗る。
もう電車に乗って帰ってるかもしれないし…と思ったが、
電車を降りると出入り口に福原がいた。

外はザーザーと雨が降っている。

声をかけようとした途端
「よし!」
という掛け声とともに身構えた。

まさか走る気か?

冗談でもよしてくれ。

こんな大雨の中、
傘もささずに行くと風邪をひくぞ。

福原、次の土日試合だろ。

「福原!」

振り返った福原は
きょとんとした顔をしている。

既に飛び出しかけていたらしく
肩や髪が少し濡れている。

「少し汗臭いかもしれないけど、
風邪引くよりはマシだろ」
部活に使ったタオルを頭にかけてあげた。

「ありがとう」

あっという間に赤くなった
福原を見ないようにして傘を広げ
福原を引き寄せる。

福原の傘を持っていることを思い出したのは少し歩いてからだった。

こういうのって相合い傘になるんだっけ。
小学校の時流行ったいたずらを思い出す。

急に自分の心音が
大きくなってきたことが分かった。

雨のせいで薄暗い街

こんなところを誰かに見られて
からかわれたくない。

2人の肩がずれないように並んで歩きながら、

使わなかった傘を母さんや弟に気づかれず
どうやって戻せばいいか考えていた。