今思えば、あの嫌いですの手紙も梶原くんが書いたんだろうな。
私が早川くんのことが好きっていう噂が流れてきて、真に受けて、なんとか自分に目を向けてもらおうと頑張ったんだろうな。

「美己都!」

あ、この声。

「ぼーっとしてるけど大丈夫?」

目の前に大好きな人の顔。

「うん、大丈夫。おはよう、桜」

「おはよー!」

ここは私達の通う中高一貫校。

桜は中学生の頃から仲のいい、私の親友。
ショートカットに小麦色の肌。いかにも、スポーツ女子って見た目なのに運動音痴。漫画とか妄想とか大好きな高校1年生。

「今年も美己都と同じクラスかぁー」

なんて、嫌そうな言い方で言うから、

「いいじゃん、私は嬉しいよ」

って言ったら、

「嬉しいよ?嬉しいけどさー、美乙都と話してたら岡部が嫉妬してくるんだもん。自分は豆腐メンタルで美己都と話せないからって、うちに当たるなよ!って。」

岡部は、中学2年生の時から付き合ってる私の彼氏。

「だいたい美己都もさー、ちゃんと岡部と話しなよー。自然消滅しちゃうよ?」

そんなのわかってる。私も岡部もシャイなんだ。だから、どちらからも話そうとしない。会話はほとんどメール。たまに電話。もう何ヶ月直接話してないっけ。

「みーこーとー?聞いてるー?」

「あ、うん。」

「ほんと、あんなやつのどこが好きなの?かっこいいわけでもないし、メンタル豆腐だし、美己都は可愛いし、ちっちゃいし、もっといい人がいると思うんだけど?」

「ちっちゃいは余計だし、桜も私と3cmしか変わらないじゃん!」

「そんなこといいから、どこが好きなの?」

話を逸らそうと思ったのに、出来なかった。
桜は私の事をよくわかってくれている。
だから多分、気づいていると思う。
なんで好きなのかわからない事。好きかどうかもわからない事。
そして、それを恋は理屈じゃないという言葉で隠している事。

「さあ、どこでしょーか?」

なんて、曖昧な返事をしたら

「はぁーーー」

って大きなため息が返ってくる。

「がんばってね」

なんのがんばってかわからないけどその言葉に頷く。

そしてホームルームが始まるチャイムが鳴った。