忘却ラブシック ~あまのじゃくな君には騙されません~



「う〜ん……どうしよう。この人、確実に低血圧だよね」

 遊び心で軽くつんつんしてみるが、全く無反応。

 そもそも今日は入学式だった筈だけど、この人こんな所でサボってた訳じゃないよね? 同級生だとしたら鞄が新品じゃないのも違和感あるし、先輩だとは思うんだけど……悪いお手本過ぎる。

 流石(さすが)にシーツを剥いだりまではしないものの、そうこうしている間に日も沈んで来ており、途方に暮れる。

 何せ私は入学式で倒れて保健室で約半日も寝ていた上に、明日こそ完璧に通学して慎ましく一日を過ごす為に、そろそろ帰って備えないといけないのだ。余計なお節介を焼いて、名も知らない先輩を気に掛けている暇は無い。

 目を覚ましてくれない事には手の打ちようが無いが、一応もし再び連絡が来たら端末を手渡せる様に、片手に持っておく。勿論、中を見るなど以ての外。

「どちらにしても、時刻的に起こしてあげた方が良さそうだしなぁ……って、あれ?」

 極力画面の直視を避けながら逡巡(しゅんじゅん)していると、何故か突然、ピタリと振動が止まった。

 永遠に震えているんじゃないかと呆れる位あれだけ(うるさ)かった端末が静かになり、思わず瞠目(どうもく)してしまう。