忘却ラブシック ~あまのじゃくな君には騙されません~



「あ、スマホのバイブ音か……」

 恐らく場所が場所なので、サイレントモードに設定しているのだろう。幸いにも着信音は鳴らなかったのでホッとするが、もしかしたらと緊急の連絡の可能性を考えて、起こすかどうか迷う。

 でも私みたいな入学したての、相手からすれば見ず知らずの人間に寝顔とか見られたくないんじゃ……少なくとも私だったら嫌かも。それに寝起きの機嫌が悪いタイプだったら、難癖付けられる可能性だってある訳だし。

 と、うだうだ判断を躊躇している間にもスマホは小刻みに振動し続けている。

 自分が覚醒した時から保健医が不在なのは明白で、他に声を掛けられる人間がいる筈もなかった。

 これ多分、電話に出るかレスポンスあるまで鳴り止まないんじゃ……?

 無機質な音が空虚に響く。

 ここまで来ると、逆に連絡に気付いている私がスルーするのも変な罪悪感に駆られそうで、意を決して声を掛ける事にした。

「失礼しまぁす……」