忘却ラブシック ~あまのじゃくな君には騙されません~



「へ……っ?!」

 えっ? もしかして隣のベット、誰か居たの……?!

 無人だと思っていた保健室によもや他の人間が眠っていたとは露ほども思わず、内心焦る。寧ろどうして誰も居ないと決め付けていたのか、我ながら疑問だ。

 寝言? まさか最初から起きてた訳じゃないよね……?

 もし隣の人が今起きたのなら、帰り際にばったりと顔を合わせた場合、非常に気まずい。それだけならまだしも、実は虚しい独り言を聞かれていたと言う状況もそれはそれで困る。恥ずかしい……現実を直視して颯爽と帰宅しなかった私の落ち度だ。

 項垂れていても仕方が無いので、一先ず暫く息を潜めて耳を澄ましてみた。
 けれど長い沈黙の後、仕切りの奥から聞こえて来たのは予想外にも耳に馴染んだ機械音で、肩透かしを食らう。

 よく見ると隣のカーテンがきっちり閉まっておらず、(いささ)か様子が筒抜け、と言った方が正しかった。プライバシーと言う言葉を知らないのかな。

 床には重そうな鞄が無造作に放り出されており、その不安定な荷物の上へ置かれたスマートフォンが、音の発生源だった。