予想の斜め上の発言だったのだろう。言葉を失ったのか、当の本人は呆気に取られた様子で立ち尽くしていた。ずるり、鞄の取っ手が肩から落ちる。
本当に記憶が無いのなら、単純にいきなり初対面で変な女だと思われるだけかも知れない。でも、じゃあ「はいそうですか」と簡単に引き下がれる程素直じゃないし、私の想いはヤワじゃない。
それに、とてもじゃないが初めて会った相手に向ける反応には見えなかった。と言っても、これは口だけではどうにもならない話な訳で、また言いくるめられそうな予感がするので、つまりーー先手必勝。
震えそうになる指先で髪を耳に掛けながら、これ幸いと彼の理解が及ばない内に畳み掛ける。
「記憶力って良い意味でも悪い意味でも、馬鹿に出来ないの。ーー何が何でも思い出させてあげますね? 先輩?」
自然とにっこり微笑み、嫌味たっぷり朗らかに宣言した。
