本当の本当に忘れられてるのなら、悲しいけれど仕方無い。でも、もしそうじゃなかったら? 覚えているのに知らないフリをする理由は?
答えの出ない疑問が、頭の中でぐるぐると回り続ける。
でも結局、何度一人で考えようが堂々巡りに過ぎない話だ。本人に問い質しても、きっと態度は変わらないだろう。だとしたら、残された手段は限られる。
「私、ハルくんには返さなきゃいけない、大事なものがあるの」
「……それは、俺じゃないハルくんの方、だね」
寝台に降ろしていた腰を上げ、私を見下ろす形で立っていた彼にゆっくりと向き合う。目線が少し高くなり、怪訝そうに眉を顰めて唇を引き結んだ表情がよく見えた。
眉目秀麗な人間はどんな表情でもはっとする美しさだなぁ、と呑気な感想を抱きつつ、徐に頬に手を当てて小首を傾げる。
意図を悟らせてはいけない、と細心の注意を払って口を開いた。
「私、決めました。……明日からハルくんに付き纏います」
「……は?」
