いつだったか「私もお揃い」と自分で指に油性ペンで落書きして、暫く消えなくて笑い合った事を思い出す。

「……黒子の一つや二つ、皆あると思うけどなぁ。小さいから形だってあるようで無いし」

 唯一それなりに可能性のあった証拠を抑揚の無い声で一刀両断され、ぐうの音も出ない。

「そ、それに! ええっと……目が合った時、ビビっと来た、と言うか」
「ふ……っ、そんな口説き文句、女子に初めてされたよ」

 余りに否定するものだから強い語調で言葉にしてみたものの、酷い語彙(ごい)力で、徐々に羞恥心が込み上げて来た。
 余程可笑しかったのか、口許を抑えてくすくすと笑みを堪える姿に居た(たま)れず、頬が紅潮する。

 肝心の指先の特徴だけは明確に確信を持って告げたのに、「偶然だ」と言われたらそこで終了してしまい、まさに八方塞がりだ。

 諸々含めて私にとってはもう、彼こそが小さい頃に出会ったあの「ハルくん」だとしか思えないのに――もしかしたら忘れてしまったのだろうか。

 それとも、何か、隠されてる……?

「でもさ――小さい頃の事なんて、大抵の人は忘れてるんじゃない? 俺はどちらかと言うと記憶力良い方だからね。……君みたいな可愛い子と出会ってるなら、忘れる筈無いよ?」

 見る者を虜にする、それはもう砂糖菓子より甘そうな微笑だった。